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Crash『クラッシュ』|Film Review

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日本でも公開中の映画『クラッシュ』(Crash)は、ロサンゼルスで生活するさまざまな職業やバックグラウンドを持つ人々の人生が複雑に絡み合い、やがてある殺人事件にたどりつくまでの2日間を描いた群像劇だ。

民族、人種、地位、貧富の差によって棲み分けられる社会。そこで生活する市井の人々を追いながら、人間の心の奥深くに根ざした差別心が、人々の生活や人生に影響を及ぼしていく様子を寓話的に描いている。

この映画は、1月29日に発表された全米映画俳優組合賞(SAG賞)で最高賞のアンサンブル演技賞を受賞し、さらに、1月31日に発表された第78回アカデミー賞のノミネートでも、作品賞、監督賞、脚本賞を含む6部門で候補となった。なので、日本で今、最も注目されている映画の一つだろう。

だが、昨年この映画を観て以来、悶々とするものを抱えていた私は、賞レースが始まってからの世間の盛り上がりや称賛を妙に冷めた目で見てしまう。

それというのも、この映画、寓話的な「作り物」臭が、どうにもこうにも私の鼻についてしまうからなのだ。

Don Cheadle in Crash ©︎ Lions Gate

映画の舞台はホリデーシーズンのロサンゼルス。

映画は、メインキャラクターたちの日常が交差していく様を、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』のようなスタイルで追いかけていく。

焦点を当てる人物が移ると観客の視点も変わり、知らない間に、多人種・多文化・多民族が生活する大都会の一面と、人間の弱さや複雑な心の一面をのぞくことになる。

Jennifer Esposito (Left) and Don Cheadle (Center) in Crash
Jennifer Esposito (Left) and Don Cheadle (Center)
in Crash ©︎ Lions Gate

刑事のグラハム(ドン・チードル)は、相棒(ジェニファー・エスポジート)と共に、ある事件を捜査している。

グラハムには素行の悪い弟がいて、薬物依存の母親は弟のことばかりを心配し、母親の心の中にグラハムの居場所はない。そのせいか、肉体関係のある相棒とも噛み合わず、孤独を抱えている。

小売店を経営するペルシャ系のファハドは、自分の店を守るために銃を買おうとガンショップを訪れるが、白人店主から「オサマ」と呼ばれ、自分たちをアラブ系だと思って差別する人たちに敵意を持つ。そして、その敵意をメキシコ系の錠前屋に向ける。

Jack McGee (Far Left); Shaun Toub and Bahar Soomekh (on the Right) in Crash
Jack McGee (Far Left); Shaun Toub and Bahar Soomekh (on the Right)
in Crash ©︎ Lions Gate

黒人の自動車強盗の二人(クリス・“ルダクリス”・ブリッジズとローレンツ・テイト)は、裕福そうな白人夫婦からSUVを盗む。世の中は黒人差別でいっぱいだと相棒に説教を垂れる強盗の一人(ルダクリス)は、逃走中に東アジア系の男性をはねてしまう。だが、彼にとって東アジア系の人間は、一様に皆「チャイナマン」でしかない。

黒人からSUVを強奪された地方検事(ブレンダン・フレイザー)は、有権者がそのニュースをどう捉えるかを気にし、肌の色の違う人間を、自分を公平に見せるための小道具として扱う。

その妻(サンドラ・ブロック)は、強奪事件をきっかけに家の錠前を全て付け替えるが、錠前屋(マイケル・ペーニャ)のスキンヘッドとタトゥーを見て、ギャングの一員だと確信し、あからさまに不快感を示す。

人種差別心でいっぱいの警官(マット・ディロン)は、別のSUVに乗る黒人夫婦を執拗に脅し、テレビディレクター(テレンス・ハワード)の妻(タンディー・ニュートン)の身体を身体検査と称してまさぐる。その様子を、白人の相棒警官(ライアン・フィリップ)が不快そうに見ている。

とまあ、こんな具合に、監督のポール・ハギスは、脚本を共同執筆したボビー・モレスコと共に、次から次へと新しいキャラクターを登場させ、その人物たちの差別心をあからさまにしていく。

群像劇というより、差別と憎悪の連鎖劇といった方がよいかもしれない。それを、スタイリッシュな映像で描いているのだ。そこにどうも悶々としてしまう。

登場人物の誰もが相手の言うことにあまり耳を傾けず、割とすぐに激昂し、口論し始め、そして人種差別的な言動を口にする。それがこちらをギョッとさせる。

どんな人間にも差別的な部分があると言いたいのだろう。それはその通りなのだが、あまりにも悲観的で救いがなく、それを美しいビジュアルで見せつけられるので、「人間というものはそういうもんなんだ。それが人間の美しさの一つなんだ」と言われているようで、うんざりしてしまうのだ。

Terrence Howard in Crash
Terrence Howard in Crash ©︎ Lions Gate

しかも、ロサンゼルスほどのドでかい街で、映画に登場するキャラクターたちが皆、まるで芋の蔓でつながっているかのように、次から次へとつながっている様子が描かれる。映画がオープニングシーンに戻っていく構成になっているのと同じように、話が進むにつれ、すべてのピースがぴたりぴたりといとも簡単に収まっていって円を描く。

見ているこちらは、次第に腕の良い手品師の技を見ているような気分になる。種と仕掛けがきっとどこかに隠されていて、観客にはそれがわからない。そんな「騙されている感」というか、「偽物臭」を感じてしまうのだ。映画なのだから、偽物なのは当たり前なのだが、それでも、「これはクリエイターのファンタジーだから」と思って自分を納得させようとしても納得できない胡散臭さががこの映画にはある。

Sandra Bullock in Crash
Sandra Bullock in Crash ©︎ Lions Gate

とはいうものの、役者陣は皆、良い仕事をしている。特に、この映画でアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされたマット・ディロンは納得の素晴らしさだ。また、「隣の気のいいお姉さん」的イメージが強いサンドラ・ブロックも、スノッブでビッチな妻役で新しい面を見せていて良い。

テレンス・ハワードは、差別社会の中でうまく生きるため、亀のようにさっと首を引っ込める術が身についてしまった男の、微妙な心の動きを見せてくれる。

家族思いの優しさを滲ませるマイケル・ペーニャも、もどかしい警官を演じるライアン・フィリップも良い。

Michael Peña in Crash
Michael Peña in Crash ©︎ Lions Gate

おそらく、この映画の良いところは、映画が終わった後に劇場を出ながら、「これが作り物のお話で、ああ、良かった」と思えるところなのかもしれない。そして、自分のストレス発散にはくれぐれも気をつけようと思わせるところだろう。

Photo © Lions Gate Entertainment

Crash 『クラッシュ』
監督:ポール・ハギス
脚本:ポール・ハギス、ボビー・モレスコ
出演:ドン・チードル、ライアン・フィリピー、マット・ディロン、タンディ・ニュートン、ブレンダン・フレイザー、サンドラ・ブロック、テレンス・ハワード、マイケル・ペーニャ、クリス・”ルダクリス”・ブリッジズ、ジェニファー・エスポジート、ショーン・トーブ、バハー・スーメク
2005年5月6日全米公開
2006年2月11日日本公開

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