Theater Review: Rock of Ages 『ロック・オブ・エイジズ』

短髪厳禁! 80年代ヘアーメタルロックまみれの懐メロおバカミュージカル

ハムレットの苦悩が「生きるべきか、死ぬべきか」なら、その夜ブロードウェイの劇場に座るわたしの苦悩は「いっそのことノルべきか、出るべきか」だった。

ロックミュージカルRock of Agesを上演しているHelen Hayes Theatreに入ったとたん、そもそもそこがブロードウェイの劇場なのかという疑問が頭をもたげてきた。

劇場の中ではピチピチTシャツを着たウェイトレスがヘソを見せびらしながら客席を縫うように移動し、注文を聞いては酒を運んでいる。

わたしの隣に座るかつてのバイカーとその彼女風の40代後半カップルは、そんな酒をすすりつつBGMに合わせて体脂肪を揺さぶっている。

少し離れたところでは、プレイビルと一緒に渡された100円ライター型ペンライトをさっそく嬉しげに点け、腕を高らかに上げて左右に振っている観客もいる。気のせいか、男性客の髪は他の劇場平均よりも長くてうねっているし、女性客の革ジャン率も高い。中にはスタッズ付き革ジャンのウェービーヘアーなカップルまでいる。

劇場を包む雰囲気はまるでライブハウスで、観客が待つのは舞台奥に置かれたバンドセット(ドラムは「エサを与えるべからず」と記された檻の中)にミュージシャンが陣取り、ロックコンサートを始めることだけのよう。

思わず膝に置いたプレイビルをお守りのように握りしめ、「ここはブロードウェイの劇場だよね?」
と自問してみるが、舞台に登場したジャック・ブラックもどきのMCが無情にも宣言したのは、「ここは1987年のハリウッド、サンセット・ストリップ!」だった。

ライブのMCだと思ったジャック・ブラックが、サンセット・ストリップにあるライブハウスで働くロニーという役を演じているのだと知った頃には、バブリーな時代設定にぴったりの泡のように中身の無いボーイ・ミーツ・ガール物語が始まっている。そしてそれが「いっそのこと他の観客のようにノルべきか、それとも劇場を出るべきか」というわたしの苦悩の始まりでもあった。

 

まるでジャーニーの1981年のヒットソング、Don’t Stop Believin’の歌詞のように、故郷の小さな町を出たシェリーがシティボーイのドリューに出会う。それぞれに女優とロックシンガーになるという夢を抱く二人は、ライブハウスで働き、当然のようにお互いに惹かれ合うがこれまた当然のようにすれ違う。

この二人の恋の行方に、土地開発によるライブハウスの取り壊し問題がからまって物語は進む。登場するのは女と見ればすぐにズボンのジッパーをおろす自己中ロックスターに、ストリップ小屋のオーナーやドイツ人の強欲土地開発業者と収賄市長、そして環境保護運動家という濃いめのキャラクター達。

これらの登場人物が80年代バリバリのこっ恥ずかしい衣装に身を包み、これでもかと腰を前後に振り、くねらせ、鏡獅子のように髪を振り回しつつ、複雑でもなんでもない人間模様を織りなして見せるのだ。

観客は大喜びでノリノリ。しかし、なぜかノリそこなって客席に取り残されてしまったわたしはお話のあまりの陳腐さにいたたまれなくなって後悔する。

「ちきしょう。酒をしこたま飲んでおくんだった!」

しかし、劇場を出るべきかとまで考え始めたわたしを引き止めたのは、このミュージカルの主役と言っても過言ではない80年代のヒット曲の数々。そして、曲と曲との間に観客をいじくっては楽しませる、名物司会者のような狂言回しのロニーの存在だ。

Twisted SisterのI Wanna Rock、ボン・ジョヴィのWanted Dead or Alive、ホワイトスネイクのHere I Go Again、ヨーロッパのThe Final Countdownといった、聞くだけで髪がうねうねと伸びてきそうな曲の合間に、マレットヘアーの襟足をちろちろとなびかせたジャック・ブラックもどきのロニーが舞台中をかけずり回る。そして舞台と客席との間の見えない第四の壁などすっかり無視して、内緒話をするかのような親密さで観客に直接話しかけてくる。

 

ロニーと往年のヒット曲との組み合わせは、まるでお笑い芸人が司会する懐メロ歌合戦番組を見ているかのよう。こうなると曲と曲の合間の物語展開はもはや番組の途中で挿入されるコマーシャルみたいなものだ。CMが始まるとチャンネルをつい変えたくなるように、おバカな泡物語が始まるやつい指でパチンとはじきたくなるのを我慢して、次の懐メロ・ロックがロニーの司会とともに始まるのをぼんやり待ちさえすれば良いのである。

この80年代ヘアーメタルロックまみれの懐メロおバカミュージカルは、トム・クルーズやキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アレック・ボールドウィンにメアリー・J・ブライジなどの有名スターがずらりと出演する映画版が現在製作中だ。

トム・クルーズが演じるのは自己チューで女ったらしのロックスター、ステイシー・ジャックス。アメリカでの公開は来年6月の予定である。

と、ここであなたの頭にはきっと新しい疑問が生まれただろう。
映画公開までに舞台を見ておくべきか、パスするべきか?

That is the question.

Photo by Joan Marcus

注:日本でもこのミュージカルの翻訳版が10月28日から東京で上演される。主演は扇風機で髪をなびかせるのが日本一似合う男、T. M. Revolutionこと西川貴教。狂言回しの美味しい役ロニーを演じるのは川平慈英。オフィシャルサイトのビジュアルがちっとも80年代風じゃなく、むしろ2011年ゴスロリ風な点がちょいと残念。

Rock of Ages
Brooks Atkinson Theatre (〜2011年1月8日)
256 West 47th St.(Bet. Broadway & 8th Avenue)
Helen Hayes Theatre(2011年3月24日〜)
240 West 44th St. (Bet. Broadway & 8th Avenue)
オフィシャルサイト

プレビュー開始:2009年3月17日
オープン:2009年4月7日
クローズ:2015年1月18日(2016年6月24日情報更新)

上演時間:2時間25分

Credits: Written by Chris D’Arienzo; Directed by Kristin Hanggi; Choreography by Kelly Devine; Scenic Design by Beowulf Borritt; Costume Design by Gregory Gale; Lighting Design by Jason Lyons
Original Cast: Constantine Maroulis (Drew), Amy Spanger (Sherrie), James Carpinello (Father/Stacee Jaxx), Adam Dannheisser (Dennis/Record Company Man), Mitchell Jarvis (Lonny/Record Company Man), Michele Mais (Justice/Mother), Lauren Molina (Regina/Candi), Paul Schoeffler (Hertz) and Wesley Taylor (Franz)

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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